ストーカー事件

雷が波久倍くんをバリアで覆い、2人が戦闘態勢に入ると同時にネビュラたちも動き出した。

「いいね、戦闘術者! 戦えないで勝つなんてつまらないからさ」

そう言ったネビュラが手をあげると突然視界が暗くなった。

「なんだ?!」

次の瞬間氷河を衝撃が襲う。カルロッタが術で飛ばした岩だった。

「お前が急に術を使うから後ろの連中を一部巻き込んでしまったぞ」

いつの間にか暗視ゴーグルらしきものを身に着けたカルロッタが言った。

「僕の戦闘スタイルを知らないほうが悪い〜」

視界が奪われたのはネビュラの術のようだった。作用系の術ではなくどうやら物理的に暗くなっているらしい。

「光を吸収! ってカッコよくない?」

だが、物理的な暗闇なら、人間の目はそのうち慣れる。暗闇に紛れて襲ってきた面々を雷が術で縛り付けた。
見えにくいのは間違いないが、人の形くらいなら判別がつく。特に雷の術は雷属性で、光を伴う。

「ほかの連中はあんま強くないな? もしかして私たちが思うほど戦闘員はいないのか?」
「どうだろうね」

雷の目の前でフラッシュとともに光の弾が爆発した。
目の前が一瞬真っ白になる。

「なるほど、すごく目に悪い……」

急に暗くしたり光らせたりして視界を奪いながら攻撃するのがネビュラの得意技らしい。ネビュラはさらに光の弾を連射してくる。
雷は電撃で迎撃しようとする、バリアの維持にも霊力を割いているため微妙に威力が出ない。

「俺がやる! 吹雪!」

氷河のほうから吹雪が巻き上がり、光弾を吹き飛ばし、吹雪ごとネビュラにぶつかる。

「今だ! バインド!」

自分の術を食らってひるんだネビュラを雷はバインド術で動きを封じる。
その隙にカルロッタが岩をたたきつけて波久倍くんの周囲のバリアを破壊する。

「私のことも忘れるなよ?」

氷河がとっさにつららを飛ばしたがカルロッタは岩壁を生成して防いだ。

「あ〜死んだかと思った」

雷のバインドを速攻解いたネビュラがこの場にふさわしくない呑気さで伸びをしながら言う。

「お前がこんなことで死ぬか」
「なかなかやるじゃんとは思ったね」

氷河の術に加えて自分の術のダメージもまとめて食らったはずなのにぴんぴんしている。そもそも能力も解かれていない。

「こいつ……スタミナバケモンか?」

少なくとも氷河の術は火力に特化しているので、バリアもなしにじかに食らったら少しはダメージを受けていてほしいのだが……

「君たち若いのにいい線行ってると思うよ。うちにこない?」
「何で誘うんだよ」

呆れ顔のカルロッタを尻目にネビュラは続ける。

「うちの福利厚生は衣食住の保証や医療のサポートが充実していて―― 」
「入らないぞ」

雷が遮る。

「私は人に従うのが嫌いだからな」
「俺は曲がりなりにも春寒だし、人に危害を加える連中には加われない」

「青いね」

ネビュラは口角をあげた。

「じゃあ第2回戦といくか」

再び周囲が暗くなる。

「またその手か。それなら、勝手に明るくしてしまえばいい!」

雷の手から上方にまっすぐ青白い光が放たれる。

「見えた!」

先ほどのように暗闇に紛れてふいうちしようとしていたカルロッタに氷河が雹をぶつける。

「チッ」

カルロッタは雹を腕で受け止める。
その時、周囲の明るさが元に戻った。ネビュラが光を吸収するのをやめたらしい。

「あ〜まあそうだよね。2回目だし。そんなことより……」

雷の目の前で突然爆発が起こった。

「星は明るい方が見えにくくなっちゃうからね」

雷と氷河の周囲で連鎖的に爆発が起こる。
見えないものは避けようがないしバリアで防ぎ続けるにも限界がある。

「こうなったらまた吹雪で吹き飛ばすしか……」
「それだ!!」
「え? 何?」
「ライブ会場に炊くスモークと同じだ。空気中に光を反射するものが増えれば……」
「なんかよくわからんが、とりあえずやってみるぞ」

氷河が吹雪を起こした。うっすら白くなる視界の中に、光弾が空中を漂っているのが見えた。
雷が光弾に向かって術を飛ばそうとした瞬間ネビュラはすべての光弾を自ら起爆させた。
爆発の煙によって視界がさらに悪くなる。

「まあ、私の術には視界なんて関係ないんだけどな。電撃拡散!」

雷の指先から複数の電撃が放たれる瞬間、足元が隆起し。術に探知機能を仕込めば敵を視認出来なくとも命中させることが出来る――
視界がゆっくり回転する。ネビュラの光弾が再び飛んでくるのが見えた。

「穂天先輩危ない!」

波久倍くんがとっさに雷の体をつかんでその場の真横に転移した。

「……あれ?」

戦闘音以外の周囲の音が聞こえる。
時間停止が解除されている。さっきまで悪かった視界もすっかり良くなっている。

「大丈夫ですか?!」
「あぁ、うん……ありがとう。思ったより反射神経良いね?」

「あ〜〜、だる、瞬間移動されると僕の能力勝手に解除されるんだな」

ネビュラが面倒くさそうに言う声が聞こえた。

「雷たち急に消えるからびっくりしたぞ」
「あぁ、うん……」

雷から見ると連続した時間だったが、氷河たちから見ると雷たちがしばらく消えたように見えた。氷河は、雷たちが消えたのを見たネビュラが渋い顔をしながら能力を解くのを見た。目の前から消えられたらどこに転移したか確認しなければならないためである。だが、ネビュラが能力を解いたら雷たちは目の前に出現した。空港から転移した時時間停止が解除されていたのは、距離的制約ではなく波久倍くんの能力のおかげだったらしい。

そんなことよりも、雷は気づいたことがあった。

「……波久倍くんってさ、もしかして転移場所が見えてたら飛べるんじゃないか?」

彼は”空港内はあんまり座標を覚えてない”と言った。要するに重要なのは行ったことがあるかどうか、というより脳内で正しくその場所の座標を認識しているかだろう。
それをざっくりいうと、よく知っている場所にしか転移できないということになる。
そもそも同じ部屋内で転移し続ける実験をしたことがあるというのだからそりゃできるのだ。なぜ今まで気づかなかったのか雷は自分でも不思議だった。

「え? あ、確かに……そうかもしれません。でもここから滑走路は見えないし……」
「そうじゃなくて、あそことかさ」

雷が目線を向けたのは後ろ側の中層マンションの屋上。そこからなら滑走路の中も見える。

「……遠くないですか? この距離は実験したことが……」
「私が出来るって言ってるから出来るんだよ」

雷は波久倍くんの手を取った。それを見た氷河も同じようにする。

「私は天才なんだからさ」

戦闘はまだ終わってないだろ! と叫ぶネビュラたちの声が一瞬で遠ざかった。