それからしばらく波久倍くんから連絡はなかった。何もないのは良いことなので、それはそれでいい。
一体何が関わっていたのかは気になるが、あまりにも情報がないので調べようはなかった。
その間雷は小金稼ぎも兼ねて霊能力庁の依頼掲示板から色々と仕事を受けていたが、黒スーツの連中を見ることはなかった。まあ依頼掲示板にそんな物騒な事案があっても困るが。
氷河は戦闘術者試験の勉強などをしていた。
「ひょーがくんなら直前にやるだけで受かるのにな」
「俺は少しずつ勉強するほうが性に合ってんの!」
そんなこんなで過ごしていたある日、波久倍くんから連絡があり、屋上に呼び出された。完全に人目のない集合場所として扱われている。
「お久しぶりです穂天先輩、春寒先輩」
「まさか……またあいつらが?」
「あ、そうじゃなくて……」
波久倍くんが気まずそうに切り出す。
「引っ越すことになったんです。西の大陸に」
「引っ越し?」
雷たちは目を丸くした。
「西の大陸て……また遠いところに」
「ストーカーのせいで?」
「えーと……父の仕事で転勤が決まっていて、もとは父だけ行く予定だったんですが、そのこともあったので家族全員で行くことにしたんです」
「なるほど、いくらなんでも国をまたいでついてきたりはしないよな……」
「許可証がある人とかしか住めないところなのでさすがに大丈夫だと思いますけども」
「あぁ、あそこか……」
雷は遠い目をした。
幼少期に両親に連れられて各地を巡っていた雷は、西のほうにも多少行ったことがあったためどこなのかピンと来たようだった。
「それで、なぜわざわざ俺たちに?」
「そう、本題はそっちで」
波久倍くんは周囲を見渡した。
「誰も来ませんよねここ……」
「基本立ち入り禁止だからなぁ。よっぽど変な人じゃないと入らないよ」
「変な人の自覚あったんだなーお前なー」
「氷河君も立ち入ってるだろー」
「じゃあ大丈夫ですね。誰か来たら別の場所に飛べばいいし」
波久倍くんは一人納得した。
自分も変な人に入っていることは棚に上げておいた。
「えーと、僕の能力は基本的に行ったことがある場所しか行けないんですよね」
「お、おう?」
「行ったことあると言っても……何回も行ってて場所が正確にわかるところというか……うろ覚えだと変なところに飛んじゃったりして」
「へぇ、そんな制約が」
能力のことをしゃべるから人目を気にしていたようだ。
「なので、家から学校に行くとか、学校から首都の研究所に行くとかは、できるんです。だからもし先輩たちがいないところでストーカーが来ていても最悪能力つかえば、何とかなるんですね。大人から怒られるでしょうけど……」
「だから気配が消えた後の護衛は頼まれなかったのか」
「ずっと護衛させるわけにもいきませんし……」
「報酬くれるなら別にいいんだけどな」
「こら」
氷河が雷の頬を引っ張る。
「で、問題はここからなんですよ。引っ越しするには僕も移動しないといけないので、飛行機に乗るために、空港まで行かなければいけないじゃないですか」
「そうだな」
「空港は行動圏じゃないので飛べないんですよね。だから空港までの護衛をお願いしたいんです」
「そういうことならもちろん! 何の問題もない」
「いつの予定なんだ? 引っ越しは」
波久倍くんが答える。
「2週間後の土曜です」
「じゃあ予定を開けておかないとな」
細かい時程は後で打ち合わせするということで、とりあえず解散した。
屋上の階段を下りながら氷河はふと思い出す。
「2週間後の週明けってさ……」
「ん? なんかあったっけ?」
「単元テストじゃね? 数学の」
「……ひょーがくんはまだ戦闘術者じゃないから、来なくてもいいんだよ」
「いや行くけども。お前一人じゃ不安すぎる」
「ま、戦力が多いことには越したことないしね」
そういう意味じゃないんだがな……と氷河は思ったが口には出さなかった。
