ストーカー事件

「めずらしーなー氷河くんが遅刻なんて」

氷河が教室に入ると、すでにHRが始まっていが。
名字が近いため、雷は氷河の後ろの席である。クラスも同じである。小5で知り合ってからずっと同じクラス。さすがに縁が腐っている。

「ちょっとな、波久倍くんが」
「誰だっけ? それ」
「この前よくわからんのに追われてた」
「あぁ! 駄菓子くれた彼か。彼がどうしたの」
「あぁ、なんかな、」

「雷氷コンビ! 私語は後にしてください」

先生から注意がとんだ。HR中なので当然ではあるが。ちなみに雷氷コンビというのは、雷と氷河がセットで呼ばれるときの名前である。2人して色々なことに首を突っ込んでいることは先生にも知られているのである。周りは、氷河が巻き込まれていてかわいそうというが、氷河は自分の意志で雷についていっているので何も言えない。

というわけでHR終了後。

「で、ハクベくん? がなんだって」
「どうも、彼テレポーターらしい」
「へぇ! 珍しいな」

雷が身を乗り出す。

「テレポーターなんて創作の世界の代物だと思ってたが……実在するもんなんだな」
「で、もし彼が怪しい連中に追われる理由があるとしたら……」
「その能力か」

とはいえ、いくらレアとはいえテレポーターを攫う意味が分からない。

「とりあえず、まずハコベくんに問い合わせてみよう」
「ハクベくんな」

昼休み、波久倍くんを呼び出しに行く。
雷たちは微妙に知名度があるため、教室がざわついていた。

「なんか騒がしいな」
「先輩たち、結構有名ですよ」
「なんでぇ? まあ依頼来ないと暇だし、有名なのに越したことないか」

さて、人気のないところを探そうと思うと、必然的に(名目上は)立入禁止になっている屋上に行くしかない。ちなみに雷たちが屋上に出入りしていることは先生たちにバレている。みんなやっているため黙認されている。

「この給水タンクの中で死体が見つかったことがあってな」
「えぇ」
「お前屋上来るたびその話するよな」
「学校の七不思議•屋上の幽霊の正体なのだが」
「あれって飛び降り自殺した生徒の霊じゃないんですか?」
「そういう説もある」

そんな話はどうでもいい。

「そいで、氷河くんから聞いたんだけど、君、テレポーターなんだって?」
「春寒先輩! 内緒にしてって言ったじゃないですか」
「いや、大人には言ってないから……ていうか、俺たちはそれこそが君が何者かに狙われているとふんでいる」
「え!」

波久倍くん、心底驚いた顔をする。

「僕なんて、瞬間移動できるだけなのに」
「瞬間移動ってどんな感じなの? 呼吸できる?」
「呼吸するまもなくその場所にいますけど……」
「ほんとに瞬間なんだなぁ」

よくわからないところに感心する雷。

「瞬間移動って、私たちもできるのか? 例えば西の大陸まで行けちゃったりする?」
「あんまり能力の詳細について人に教えるなって研究所の人に言われてるんですよ……」
「研究所?」

氷河が首をかしげる。

「はい、能力開発研究所です。珍しい能力だから、研究に協力してるんです」
「へぇ〜」

雷も氷河も非能力者なので、能力者のそういった事情はなかなか興味深いものがあった。

「能力開発研究所って……どっかできいたことあるな」
「あれだろ。事件の」
「あ〜」

去年、能力開発研究所の所長の家が放火され、一家全員亡くなるという凄惨な事件が報道されていた。それで名前を聞いたことがあったのだ。

「研究所って、他にも珍しい能力の人を研究してたりするのか?」

雷が訊く。

「多分……」
「多分?」
「会ったことないので。研究所の人も教えてくれませんしね」
「なるほど」

確かに能力についてはプライバシーに関することなので他人が勝手に教えるわけがない。

「そうだ。そういえば……」

波久倍くんが思い出したように言う。

「数ヶ月前に、能力調査? みたいなのに協力してくれって言ってきた人がいましたね」
「それでは?」
「それってこの間の連中みたいなのだった??」

雷が食い気味に訊く。

「いや……全然……普通の会社員みたいな……」

そもそもこの間の連中みたいなのだったら見たときに思い出せるはずだ。

「そもそも教えられないからそのままスルーして今まで完全に忘れてたんですけど、そういや、あの人ってどこから僕の情報得たんだろう……」
「ちょっと、怪しいな」

波久倍くんは前述の通り、研究所に能力詳細を公表するなと言われていた。もちろん、研究所の実験時以外で能力を使ってはいけないことになっている。
なお波久倍くんは氷河に目撃されたように、ちょくちょく内緒で能力を使っていたりするので他の人に目撃されている可能性は十分にある。

「その人はなんて名乗ってた? 所属とか言ってたか?」
「あんまり覚えてないですね……」
「うーーん……」

確かに、数ヶ月前に家に尋ねてきた訪問営業のことを思い出せと言われても無理かもしれない。同じ人が何回も何回も来るならともかく。

「じゃ、仮にその人が君の能力を調べることを諦めていなかったとして」

その人があの怪しい連中の一味なのか、その人が怪しい連中に依頼したか、その2択になるだろう。

「あれから1週間は経ったと思うけど、気配はなくなったまま変わらない感じか?」

氷河が訊く。

「ないですね……」
「うーん……ストーキングをやめたのか、方法を変えたのか……」
「それなりの実力者が内部にいそうだし、ちょっと戦闘術者につつかれたくらいでやめるかなぁ」

カルロッタのことを思い出した雷は渋い顔をした。簡単に術を解かれたのがちょっと気に入らないのである。

「どっちにしろ、また気配を感じたら教えてくれ」
「ない方が良いけどな……」
「そうですね……気をつけておきます」