「氷河くんもついてこなくてよかったのに」
「あ? お前がまた後輩に迷惑かけたら困るだろうが」
「はいはい……」
夜、波久倍くんの帰宅の時間である。
まず、本当につけている人がいるのか、雷たちも一緒についていって、確かめることにした。
「春寒先輩も、戦闘術者なんですか?」
「いや、俺はまだ違う」
「でも氷河くんも強いよ。なんで戦闘術者にならなかったんだろうね」
「お前が前日に言ってきたからだろうが! 俺も9月には戦闘術者だからな」
戦闘術者になるための試験は4月と9月の2回ある。筆記試験と実技試験が有り、受験できる基準の強さが決まっている。氷河も戦闘術者の試験を受けられるだけの実力はあったが、まあ別に高校卒業してからでも良いかと思っていた。
ある日、雷が珍しく参考書なんか読んでいるのを発見する。それを見たとき氷河は明日の天気を心配した。
「それ、何読んでるんだ」
「んー? 戦闘術者の試験の」
「は?! いつ」
「明日」
前日に勉強するやつがあるか! と思ったがそれで受かるのが穂天雷。
「いやー、でも常識問題しかないから氷河くんでもふつーに受かるんじゃね?」
「黙っとれ」
なんでまた急に資格なんて取ろうと思ったんだと聞くと、「人のトラブルに首突っ込む正当な理由あったほうがよくね?」
それはそうなのだが、戦闘術者だからといって人のトラブルに勝手に首を突っ込むことは別に正当でもない。
さて、話は戻るが。
「確かに、誰かいるなこれ」
雷たちは隠れていたわけでもなく、普通に波久倍くんの横を歩いていたので、ストーカーは現れないかと思ったら、普通に気配はあった。
「いないよりは面倒くさくなくていいけどさ」
3人は立ち止まる。
「”いる”なら、ここで殴ってしまったほうがはやいよな」
「どのへんにいる?」
「わざわざ探知術使うのはめんどいな」
雷はそう言って、無造作に全方位に電流を放った。
「おい雷! 俺が気づいたから良いけど依頼人に当たるだろうが!」
氷河は咄嗟に防御術で自分と依頼人を守っていた。
「信頼ってやつよ」
「危ない信頼だな」
さっきまでの進行方向の斜め後ろの方から、「おわっ」という声が聞こえた。
「そこだなっ! ひょーがくんは依頼人見ててくれ!」
「おいあんま無茶するなよー」
雷は声がした方に飛び出す。
「ちっ」
黒いスーツを来た2人組が逃げていくのが見えた。
「見えた! 雷撃追尾!」
雷の指先から電撃が1発発射される。
一般的な電気術に、ホーミング機能をつけた術である。一度視認した相手には、絶対に外さない。
黒いスーツのやつらは雷より足が早かったが、電気の軌跡を追えば見失うこともない。
「うぎゃ!」
黒スーツの左側のやつに電撃が当たった。2人組の足が止まる。
「ラジアン!」
「メジアン、大丈夫だ大した威力じゃない」
「そこはなんでデグリーじゃないんだよ」
ついツッコミを入れてしまう雷。
「うるせー、名前似てるから良いんだよ、コンビ感大事だろ?!」
「それどころじゃねーだろラジアン、俺ら現在進行系で”失敗”してるんだぞ」
「こいつボコボコにすりゃいいじゃん! さっきの電撃大した威力じゃなかったんだろ、ターゲットの友達か何かだろ」
「一般高校生があんな正確な追尾できるかなぁ……」
首をかしげるメジアン。今回は彼のほうが正しい。
「多分、上に連絡してさっさと逃げた方がいいんだけどな」
「俺たちも訓練受けてるし大丈夫だろ、一般高校生の一人や二人」
「戦いたいなら早くしようぜ、逃げるなら捕まえるけど」
余裕綽々な雷に苛つくラジアンと不安になってくるメジアン。
「調子乗りやがって。ボコボコにしてやる」
「流石にちょっと、連絡いれておこう……」
メジアンは端末を取り出したが、ちょうど雷に撃ち抜かれる。
「応援を呼ぶのか? 一般高校生1人に情けなくない?」
「……」
〜
戦闘の結果であるが、言わずもがなである。
「よっわ……」
2人組は電気でバインドしてある。
「いや逆につっよ! お前なにもんだよ」
「一般高校生戦闘術者だが」
「戦闘術者かよ……やっぱ連絡しとくんだった」
頭を抱えたくても拘束されているのでできないメジアン。
「中央値の方はまだ慎重だったが、実力も中央値だったな」
「誰がうまいこと言えと」
さて、こいつらどうするかな、と思案していると氷河たちがやってきた。
「音がしなくなったから来たけど、片付いたか?」
「雑魚。そのへんのちょっと強いとイキってるやつレベル」
「すごい……」
氷河たちは縛り上げられた二人組を見る。
「こいつら……なんだ?」
「君、こいつらに追っかけられる心当たりある?」
「全く……てか僕一般人ですよ! こんなヤのつく自由業みたいな人たちと関わりあるわけないじゃないですか」
「ヤクザじゃねぇ!」
ラジアンが叫ぶが無視される。
「親が借金してるとか」
「うちはローンもありません!」
「じゃ、なんなんだこいつら」
雷は二人組をジトッとした目で眺める。
「なーんか、おそろいの服着てるし、名前は韻踏んでるし、……お笑い芸人かな?」
「んなわけねーだろなんでお笑い芸人がこんなことすんだよ」
「それは、そう」
「ま、いいや。適当に警察に連れてって終わり。疲れてないけど役割が集中し過ぎだから、運搬は氷河くんがやって」
「俺ずっと波久倍くんの護衛をしてたが? つか念術とか細かい操作が要るやつは雷のが得意だろ。ま、いいけど」
氷河が2人組に術をかけて運ぼうとしたところ、突然、目の前の地面が隆起した。
「何だ?!」
「一瞬通信が入ってすぐ途切れたからなにかと思ったら、こんな事になっていたのか」
地面の隆起が収まると、目の前に一人の人間が立っていた。
「カルロッタさん!」
2人組が叫んだ。
カルロッタと呼ばれた人間は、2人組と若干デザインは異なるが似たような黒スーツに身を包んでいる。
「強いやつに絡まれたら深追いせずにさっさと逃げろっつったろ」
「一般高校生がそんな強いとは思わないじゃないですか!」
「強さに年齢なんて関係ねぇよ、ロセアスル様いくつだと思ってんだよ」
カルロッタは2人組にかけられていた雷のバインド術を”解いた”。
「は?」
「まじ?」
基本的に、この手の術は、その術をかけた術者よりも強い術者でないと解くことができない。つまり、カルロッタは雷より強いというわけである。
「雷いま霊力指数いくつだっけ?」
「氷河くんと50も変わんないよ」
雷と氷河の霊力指数はだいたい4300程度であり、この数値は一般人の平均に比べてかなり高い。人数的には学校1つに1人いればいい方である。要するに2人はかなり強い方のはずなのだが……
「君たち戦闘術者か?」
カルロッタは雷たちに話しかける。
「そうだが?」
「ふーん……ま、そこそこ強いのかも知れねぇけど私達には関わんないほうがいいよ」
「そこそこだって?」
「今の見ただろ。私のほうが強いことはわかるでしょう」
「こっちには2人いるけどな」
「ほかのやつが来るまで、持ちこたえるくらいなら余裕でできるかな」
「つかお前ら何?」
「さぁね。少なくとも普通に生きてれば君たちには関係ないかな」
カルロッタは自分とバインドを解いた2人組を念術で浮かせ、
「じゃあな、戦闘術者たち」
と言い残して去っていった。

「……なんだあいつら」
雷たちは呆然としていた。
「もう1回聞くけど、君、本当にああいう感じのに追われる心当たり、ない?」
「ないに決まってるじゃないですか……だって僕、今まで全くごく普通に生きてきたんですよ」
「だよなぁ」
