先ほど大きな音がしたと思われるあたりまで来てみると、人間が2人戦闘しているようだった。
ぱっと見戦闘なのだが、よく見ると攻撃しているのは片方だけで、もう片方はただ攻撃を避けて防いでいるだけだった。
そしてさらによく見ると、両方ともなんか見たことある人物だった。避けている方は真夏が探していた戦闘術者の叶さんのようだ。
攻撃している方は……
「おい、あれ……」
「なんで冴代文珠ここにいるんだ……」
流石の雷も頭を抱えた。
冴代文珠は1ヶ月前に雷たちが関わった黒夜同盟事件の首謀者だ。今は東都の春寒大河に連行されてこき使われている筈だったのだが……今はなぜか執拗に叶さんを攻撃している。状況がさっぱりわからない。
「あいつ……この前間違いなくひょーがくんの親戚とこに送ったよな……?」
「あぁ、ちゃんと教育するように言っておく……」
確かやつは戦闘術者が嫌いだった。叶さんが戦闘術者らしいから、その関係で喧嘩をふっかけたのではないか……と雷は推測した。
「この状況、どうしましょう? 叶さんを助けないと……」
「そうだな――」
「とりあえず、あの気が短そうな方に一発ドカンと不意打ちすれば良いんじゃね?」
シキョウが極めて雑な反応をした。
「梟にしては悪くないな」
「てめぇ梟族を馬鹿にしてるのか? 森の賢者って知ってる?」
「はいはいそこ喧嘩しない……」
雷はリュックの中をゴソゴソと探ってあるものを取り出した。
「ここに、魔獣撃退用術珠があるな」
「そういやそんなもんあったな」
「これを、冴代文珠の方に投げてみよう」
「人間に投げて大丈夫なのか、それ」
「大丈夫だろ、多分。ひょーがくんは心配性だなー」
心配性ってか、それ、注意書きに人に向かって投げるなと書いてあるんだけどな……
と氷河は思ったが口には出さないでおいた。
その術珠は投げると爆発する仕様のものであった。
雷は文珠の方に術珠を投げた。
と、ここで氷河はある事実を思い出す。
雷は、投擲だけ異様に下手。
案の定術珠は大して飛ばず4人のすぐ近くに落下した。
「あ」
ドガーーーーーーン……
「……ひょーがくん、なんで私はバリアで守ってくれなかったの?」
「一般人を怪我させなかった俺の反射神経に感謝しろよ……」
落下地点に一番近かった雷と後ろを守るために咄嗟に背後にバリアを張った氷河は爆風をモロに食らった。それで分かったことは、魔獣撃退用の術珠は、魔獣を倒すと言うよりも音と煙で魔獣を驚かせて怯ませるためのものらしいと言うことだった。パーティー用クラッカーだって人に向けるなと書いてあるし、どちらにしろ人に向かって使うものではないが……
それはさておき。
術珠の爆発音でさすがに冴代文珠たちはこちらに気づいた。戦闘を中断されて不機嫌そうである。
「あ? 穂天雷と春寒氷河⁈ なんでここに」
「それはこっちの台詞なんだよな。君は東都に居るんじゃなかったのか?」
「クソメガネが朝っぱらから今日は天緑山に行ってくれとか頭のおかしいことを言うから僕はここに居るんだが?」
「なんで半ギレなんだ」
「こいついっつもそうでは?」
身も蓋もないことを言う氷河。
「で、僕の質問には答えないんだな」
「なんで私らがここに居るかって?」
「俺たちは宝探し大会の調査に来たんだ。あとはあの真夏さんが……」
氷河は叶の方に駆け寄って行った真夏に目を向ける。
「叶さん、大丈夫でしたか⁈」
「俺は無事ですが……あなたこそよく戻ってこれましたね?」
「あの戦闘術者の方々にたまたま出会って」
「同業者の方?」
「あ、あの梟さんは違いますよ」
「それはわかりますよ、異種族は術者資格取れませんから」
「そうなんですか⁈」
つくづく運のいい人だと叶は思った。こうやって妙な運の良さで全てを切り抜けてしまうから、自分の欠点に気づけないのだが……
「ほーん、お前が叶か……」
気づいたらシキョウが近くまで来ていた。
「……なんで俺の名前を知っているんですか?」
「んー、私が一方的に認知してるだけだよ。術者のホームページとか見るのが趣味でね」
「そうですか、変わった趣味ですね」

微妙な空気が漂うところに雷たちが近づいてきた。
「そう! 冴代文珠のせいですっかり忘れていたのだが私たちは叶さんに用があったんだった」
「あ⁈ 何が僕のせいだ」
「あなたたちが真夏さんを助けてくださったんですね。ありがとうございます」
丁寧な人だ、と氷河は思った。
「それで、用って何ですか?」
「組織の拠点の場所について知りたいんだ」
「あ? 何お前らも組織について調べてんの」
文珠の発言を聞いて雷が怪訝な顔をする。
「”も”とは……」
「聞き間違いじゃないか?! そんなことよかこの山に組織の拠点があるのか?」
誤魔化すのがあまりに下手である。
「あぁ、冴代文珠は組織について調べてるのか。冴代文珠というより春寒本家?」
「本家というより大河個人じゃないかな。そういうの好きそうだし」
「ふーん案外気が合ったりするのかな」
雷が興味なさそうに言う。
「今春寒って言いました?」
叶が少し驚いた顔をして言う。
「そういえば、自己紹介していなかったな……俺は春寒氷河。で、こっちが穂天雷」
「どーも」
「あなたがたは俺のこと知ってそうですけど、一応、修堂叶です。……それで」
叶は文珠の方に視線をやる。
「急に喧嘩ふっかけてきたこいつは誰なんです?」
「はぁ〜?! お前、僕のことを忘れたのか?! 2月に!! 戦っただろう!」
「2月……? あー……?」
全然ピンときていない腑抜けた声を出す叶。
「すみませんね。その頃色々立て込んでて些細な戦闘まで覚えていません」
「些細……」
冴代文珠が燃え尽きる音が聞こえた。
「これは冴代文珠と言って、戦闘術者アンチで、先月事件を起こして私たちに成敗された末に春寒本家でこき使われてる奴だ」
「大変そうですね」
雑に流される文珠。
「それはそうと、あなた達は組織の拠点について知りたいんでしたっけ?」
「そうだった。だいぶ話がそれたな」
「今は多分なにもないと思いますよ」
「どこにあったのか教えてもらえないか? 機械があったって聞いたがそれ以外にもなにかあったのか? あと他に組織について知ってることがあったら……
「雷、一気に喋りすぎだ」
好奇心に火がついてしまった雷を氷河がなだめる。
「随分と組織に興味あるみたいですね?」
「そりゃぁ、暗躍する謎の組織! って気になるだろ。ネットで調べても全然でてこないしな〜」
「そうですね」
叶はうっすら苦笑を浮かべる。
「興味本位で首を突っ込むのはおすすめできませんね。ろくなことにならないですよ」
「でも叶さんは組織と戦ってるんだろう?」
「好きで戦ってるわけではないですよ。俺だって関わらずに済むならそれがいい」
「ほーん……そういうもんなのかぁ」
雷はうーんと首をひねる。
「こいつらは興味本位なのかも知れないが僕は仕事で調査してんだからな」
「あっ冴代文珠復活した」
「俺も一緒にしないでもらっていいか?」
「ん? というか……」
雷はふと気づいた。
「組織の拠点って叶さんが潰したってトレジャーハンターから聞いたが、じゃあなんで冴代文珠が派遣されてきてんだ?」
「は?」
「間違いなく潰したはずですけどね」
「あのクソメガネの情報が間違ってたってか? だとしたら僕は完全に無駄足だが?!」
「かわいそ」
「ってかじゃあなんでお前らは宝探し大会の調査なんてしてんの? 僕は宝探し大会に組織が絡んでるかもって聞いてきたんだが?」
「ん? ストップストップ」
雷たちはてっきり冴代文珠は別件で来たものだと思っていたが……
「じゃあ利害が一致してるじゃないか」
「あ?」
「私は単に都市伝説の真実を暴く的な意味で来ただけなんだが……面白くなってきたぞ」
「何を勝手に盛り上がってるんだ? 都市伝説?」
「あの梟の依頼も気が乗らなかったが相手が組織なら何の問題もないな! よし! ついでに冴代文珠も協力しろ」
「は?! 嫌だが?!」
文珠は雷が相手のため内容を微妙に理解しきれていないのに反射的に拒否した。
「なんでだよ。私たちは宝探し大会の主催者を倒して宝探し大会の真実をゲット! 冴代文珠もついでに手柄をゲット! になるだろ」
「まあ、相手が何者かわからないなら数は多いほうがいいよな」
氷河も賛同する。
「宝探し大会ってなんかそんな、裏がある大会だったんですか……??」
雷たちの会話を聞いていた叶が真夏に訊く。元はと言えば宝探し大会の話は真夏がどこかから拾ってきたのだった。天緑山には宝が眠っているという噂もあるし、てっきり催事的ななにかだと思っていたが……
「え? 5年くらい前から定期的に開かれてるやつなんですけど……まあ、最初の大会中に事件が起きて主催してたイベント会社が倒産したのになぜかたまに開催されているという謎がある程度ですよ」
「それを先に言え……」
叶は軽い頭痛を覚えた。この人はいっつもこう!
本当は宝探しをするふりをして真夏を連れ回して満足させたあと、適当なタイミングで下山しようと思っていたのだがそれどころではなさそうである。
「それ、俺も同行していいですか?」
「うん? もちろん」
「そいつが来るならなおさら協力したくねぇー……」
冴代文珠が苦虫を噛み潰したような顔をする。
「後で大河に言っておこうかな。仕事中に私怨で他の戦闘術者に喧嘩を吹っかけた挙句、目的の一致する俺達に協力しなかった……と」
「……」
「まあ別に解雇はされないんじゃないかな、冴代文珠の自由が減るだけだろう……」
「今日だけだからな!!」
文珠は折れた。流石に告げ口されちゃ困る。特に”私怨で他の戦闘術者に喧嘩を吹っかけた”の部分。
「ふ〜ん、なんか、面白いことになりそうだな」
戦闘術者3人と戦闘術者未満1人、自称トレジャーハンターが集まった様子を見ていたシキョウが呟いた。
