「なんか、視線を感じないか?」
雷が言った。
山に入ってからというものの何か妙に背中に違和感がある。
「まあ、山なんてそんなもんだろ。魔獣とかいるだろうし」
「うーん……」
魔獣っぽい気配ではないんだけどなぁ……と雷が首を傾げた。
「そんなことよか、宝探し大会で宝は今まで見つかってないんだって?」
氷河がおもむろに切り出す。
「そうだな……一応天緑山には昔盗賊が宝を隠したという噂があることにはあるが、あの受付の反応を考えると……」
「そもそも存在しないものを探させられている可能性?」
「だけどなぁ〜、こんなところに人を集めて疲れさせて、主催は一体何がしたいのかさっぱりわからないな」
「うーん」
「ともかく適当な枝葉でも拾って頂上に行って、スタッフの顔を拝んでやろう」
「そうだな……お?」
会話していると、向こうから人がやってきた。登山道を外れたところから来る人は宝探し大会の参加者以外考えられない。というかもはや探検服みたいな服を着ているのでこれで宝探し大会の参加者じゃなかったら逆に怖い。
「すみませ~ん」
その人は雷たちの存在を認知するなり声をかけてきて、眼前にある人物の写真を掲げてきた。
「この人、見かけませんでした?」

その写真には黒髪で片目が隠れた人物が写っていた。なぜ写真を持ち歩いているんだろう。
「見てないですね……」
「そうですか……宝探し大会に参加してるんですけどこの人とはぐれてしまって……」
「あ〜」
もし術者だとかで特殊なスキルがない人だったら、山の中を一人で歩き回るのは危険である。
「確かにそれは、危ないな」
氷河は神妙な顔で言った。
「そうなんですよ〜、叶さん……あ、写真の人なんですけど、は戦闘術者だから良いんですけど、きっと私のことを心配していると思うんですよね〜」
危険なのはお前かい!
「まあ、私は今まで一人でも魔獣に襲われたことはないから大丈夫なんですが、一応」
「いやいやいやいや」
叶さんとやらが心配するのもわかる。
「その、叶さんだかに合流するまでは、俺たちと一緒に行動しませんか? あ、俺達も戦闘術者で……」
「えっ……良いんですか?」
「氷河くん」
あまり余計なことに労力を使いたくない雷はやや渋い顔をした。
「いや、いくら運が良くとも、普通に放っておくほうが危ないだろ。魔獣に襲われて死亡! みたいなニュース流れたら寝覚めが悪い」
「んーーー……まあ、そうなんだが……仕方ないな、とっとと人探ししよう」
こういうときに伶莉でもいれば、生物の所在がわかって便利なのだが、英莉が怖い顔してそんな危ない場所に連れて行くわけ無いでしょというのが目に見えている。純粋な霊力指数だけで言えば雷たちより高いのだが……
「ありがとうございます! やっぱりパーティは人が多いほうが賑やかですからね。私は真夏と言います。職業は、トレジャーハンターです」
「トレ……なんて?」
続けて名乗ろうと思った氷河だったが普段リアルで聞くことのない単語につい聞き返す。
「トレジャーハンターです。各地を巡って宝探しをしています! まあ、何も見つけたことありませんけど」
それって無職というのではないだろうか。まあトレジャーハンターというのならこんな謎の大会に参加している理由もわかる。
雷たちも名乗って、自己紹介が済んだところで早速歩き始める。
「どのへんではぐれたんだ?」
「うーん……私はどっちから来たんですかね」
「や、役に立たねぇ……」
トレジャーハンターなのに方向感覚が死んでいて大丈夫なんだろうか。
とりあえずさっき真夏が歩いてきた方向に向かうことにする。
「ちなみにはぐれたきっかけは? もし魔獣に襲われたとかならその魔獣の生息地を探せば……」
「あー、魔獣じゃなくて、人に襲われたんですよ」
「は?」
急に物騒な話になった。
「まあ、叶さんも色んなところで恨み買ってるでしょうからね〜」
そんな軽い感じで片付けていいのか? と氷河は思った。
「叶さんて……そんなヤバい事案に首を突っ込むタイプの術者なのか? 雷でさえ襲われたこと無いのに……」
「なんでそこで私の名前を出すんだ氷河くんは」
「なんでだろうなー」
氷河は疑念の目をした雷から目をそらしつつ真夏に問う。
「ヤバい……うーん少なくとも組織の皆さんには恨まれてるでしょうねー」
「組織」
予想外の単語が出てきた。
「組織っていうと――あいつらか?」
「あー、なんかいたなぁ」
雷たちが高校生の頃、後輩が何者かに追われていたのを助けたことがある。その時に交戦した連中が組織がどうこう言っていたのだった。
「叶さんは結構組織と戦ってて……あ、そういえば以前ここに宝探しに来たとき、組織の拠点を荒らしましたね」
「襲われた原因それでは?」
それを聞いた雷がニヤッとした顔をした。
「いやぁ、人探しは面倒くさいなと思っていたが、これは良い収穫だな」
「あーあ、雷が興味持っちゃった。終わりだ……」
裏でこそこそやってるような連中と関わり合いになったらろくなこと無いのに!
「組織については前調べたこともあるんだが単語の当たり判定がデカすぎて全然情報が出てこなくてな。組織の拠点って一体何があったんだ?」
「よく分からない機械が置いてあったくらいですが……人もいなくて、叶さんが機械を破壊して終わりです」
「へぇー! まだあるのかなぁ、大会が終わったら見に行きたい」
「私はたどり着けないので、叶さんを探すしか無いですね」
「俄然楽しくなってきた」
雷がやる気を出したのは良いことなのか悪いことなのか……どっちにしろ巻き込まれるのは氷河なので、覚悟を決めるしかなかった。
