「ねぇ氷河くん」
「なんだ?」
「依頼が来ないのってさ……」
大学の授業が午前中で終わった日の昼下がり。雷と氷河は春寒家の倉庫――二人の戦闘術者事務所で退屈していた。
「事務所が春寒家の敷地内にあるからじゃないの?」
「……まあ、それはあるかもな」
今の状態だと依頼人は事務所に辿り着く前に、門のインターフォンで雷たちに用だと告げなけばならなかった。
「どこか入りやすい場所に移転したいよな〜」
「でも、そのためには金を稼がないといけないだろ」
「……」
渋い顔をする雷。
「氷河くん」
「何を言いたいのか何となく分かるが、流石に俺もそこまで私財はないからな」
「だよねぇ〜〜」
事務所をたてたのは3月下旬だが、2ヶ月の間にあった依頼と言えば、黒夜同盟事件とあと1、2件、庭を荒らしている小型魔獣を倒してほしいだとか、ペットを探してほしいだとか、それくらいである。
「もう高校時代みたいに、依頼掲示板から取りに行くしか無いんじゃないか?」
「あそこの報酬は雀の涙みたいなんだよなー」
「塵も積もれば山となるとも言うだろ」
「何年かかるかな」
「依頼が来なかったら積もる塵もないんだよな」
戦闘術者というのは最も一般的な職業術者なだけあって、国中に星の数ほどいる。飛行機の中で戦闘術者の方はいらっしゃいませんか〜と声をかけたら多分20人くらいは集まる。その中で術者業だけで食べているような人はいるかいないかレベルだが、どちらにしろこれだけいればほぼ無名の術者のところに依頼なんてそうそう来ないのだ。むしろペット探しのような誰でもできそうな依頼をわざわざ雷たちのところに持ってくるような顧客が貴重なのだ。
「あー、なんか面白そうな事件、ないかな」
雷はスマホを取り出す。
「面白そうな事件探してどうするんだよ」
「なーんか勝手に首突っ込んできて褒賞金をかっさらう横取り屋ってのもいるらしいし、私もそれになろうかな」
「やめろよ印象悪いだろ」
雷が黙ってスマホをスクロールし始めたので氷河は大学の課題でもやるかとPCを開いた。一応本業は大学生ということになっているからだ。雷がどれくらい考えているのかは知らないが、術者業だけで食っていけるんじゃなければ、氷河は大卒資格くらいはしっかりとっておきたかった。
氷河が課題のドキュメントを開いたタイミングで、雷はいきなり「氷河くん!」と叫んだ。
「うわびっくりした〜」
「これ面白そうじゃない?」
「宝探し……大会? なんだそれ?」
あまり聞かない単語の組み合わせに氷河は首を傾げる。
「ひょーがくんひょっとして、宝探し大会を知らないのか」
「そんな全人類当たり前に知ってるものみたいな言い方されても」
雷はふぅとため息をついてから、語り始める。
「宝探し大会は遡ること5年前、十の島でイベント会社が開催したものはじまりとされている」
「結構最近だな」
「ところがその大会は事件が発生して中止。イベント会社も倒産。だがそれ以降も各地で”宝探し大会”は開催され続けている」
「へぇ〜そりゃ一体何で」
「それは謎に包まれている。だから都市伝説として掲示板でたびたび話題に上がっていたんだが」
「はぁ」
「それがなんと天緑山で開催されているらしい!」
「そうですか……」
絶妙にテンションが上がらない氷河。
そういえばこいつはこういうネタが好きだったなと言うことを氷河は思い出した。
「それで、宝探し大会で宝を見つけて一攫千金しようって?」
「違うよ氷河くん」
「この流れでそれじゃないことあるのか?」
雷はわかってないなぁという顔をしながら氷河に画面を見せる。

「宝探し大会で宝が見つかったという報告は今のところ無い。それどころか、十の島後の大会では奇妙な現象が確認されているんだ」
雷はある書き込みを指差す。
ー
456:
宝探し大会、参加してみたら翌日えげつない疲労に襲われて動けなくなった
掲示板に張り付くことしかできない
457:
>>456
お前が運動不足なだけじゃなくて?
458:
>>457
そんなレベルじゃない
筋肉痛とかじゃなくて本当に体が動かない
ー
「ふ~ん?」
「なんか、術者が関わっている香りがしないか?」
「そうかもしれないが……ここまで強力なデバフ術がここまで続くことってそうない気がするんだよな」
「うん、私もそう思う」
作用系の術は、一度かけただけならたいてい戦闘が終わる頃には解けている。長時間持続するとなると、何度も繰り返し術をかける必要性があるが、その場合は相手の精神や身体に影響を及ぼす可能性が高く、推奨されない。そうでなければとんでもない技術を持った術者や能力者がいるか。
「まあ、俺はいいけど……これ調査しても金は出ないよな?」
「面白ければ何でも良いんだよ」
そういえば、こいつはそういうやつだった。
