目を覚ました氷河の視界に入ったのは古い天井だった。
「うーん……?」
別荘に不法侵入している人間を見つけ、念の為大河に連絡を取っていたところで記憶を失っている。
肉体的な痛みはないため催眠術か何かをかけられたのではないかと氷河は推測した。
と、ここで手が後ろ手に縄で縛られていることに気づく。
「……完全に捕まってるなこれ」
この程度なら念術で縄をほどいてすぐ脱出できそうではあったが、誰がなんのためにこのようなことをしているのかわからないので一旦様子を見たほうが良いだろう。
「ふふ、目が覚めたようね」
氷河の耳に聞き覚えのある声が飛び込んでくる。
「河鹿……」
そこには行方不明になっていたという春寒本家の末っ子がいた。
それ以外に、先程のピンク髪メッシュに、血縁らしき黄緑髪メッシュの人物、更に分厚い本を持った黒髪の人物がいた。

「華鹿、これが例の?」
黒髪が口を開く。これとは失礼だな、と氷河は思った。
「そう、首都春寒家の」
「ふうん……」
黒髪は品定めするかのような嫌な視線で氷河を眺める。
「河鹿……というかお前らは一体何者だ?」
「私達は黒夜同盟」
黄緑髪が口を開く。
「世の中の人間を全員不幸にする目的で結成された団体」
「ほんとーは春寒家を狙うのはもう少し後だったけど! 氷河が迂闊にあんなところうろついてるから仕方ないわね」
ついでに華鹿もなんだか言っている。
「不幸……ってことは、東商店街のアレもお前らの仕業か? 黒い夜だから黒い煙とか出してみたって?」
「東商店街の件を知ってるのか……黒い煙は不具合だよ。まだプロトタイプだったからな」
黒髪が渋い顔をしながら口を挟んできた。
「無論。僕もあの不具合を放置したままにするような雑魚術者ではない。計画が本格的に始動する頃には誰も術にかかってることには気づかないさ」
黒髪は自信満々に氷河を見る。
「……少し試すのが早まりそうだけどな」
「ここで俺にその術をかけていく気か? 東商店街を通過してきたんだが俺とその術は相性が悪いようだな」
「さっきの話聞いてたか? 本番に使う術が、プロトタイプより弱いわけないだろ」
氷河は軽くため息をつく。ここで素直に術にかかってあげるほど優しくはない。
相手の実力が未知数なのが懸念点ではあるが、直に術をかけられるよりは敵をさばきながら逃げるほうがリスクが低いと考えた氷河は自ら縄を解く。
「は? ……おい、お前ら、ちゃんと固く縛ったよな?」
「当たり前じゃん、捕まえた獣を縛っておく時の縛り方なんだけど」
黒髪の言葉に黄緑髪が答える。
「あのさぁ、俺が何の用もなく東商店街を通過してるわけないだろ?」
「まさか……」
黒髪の顔が歪む。
「お前、戦闘術者か?」
「まっ、そーゆーことだな」
今の言い方ちょっと雷っぽかったな……と氷河は思った。
「チッ最悪だ。華鹿……知らなかったのか?」
「全然! だって何年も会ってなかったし……」
「有用な情報源なんだからしっかりしてくれよ」
なんだか仲間割れみたいになっているところに今まで黙っていたピンク髪が口を開く。
「でも……私達は4人いるでしょう?」
「確かに! 戦闘術者と文珠はどっちが強いの?」
黄緑髪の質問に黒髪が口を開いた。
黒髪は文珠という名前らしい。
「戦闘術者は僕でもなれる」
「へぇ。じゃあ私達でもなれるわね」
「お前らはまず筆記の勉強をしなければいけないがな」
氷河は今の会話から実力が不明だった2人もそれなりに実力があるらしいことを察した。
河鹿に関しては術が得意とかは聞いたことがないが、知らない間に術式戦闘ができるようになっている可能性もなくはない。
(まあどっちにしろ逃げるだけならなんとかなるか)
まずはここから脱出して雷と合流する。
