黒夜同盟

セレンディアが示した方角は、氷河が入って来た側とは反対側だった。

「確かにこっちのほうが煙が出ている人達が多い」

多いと言いつつ商店街自体に人が少ないので、割合の話なのだが……

「だとするとやはり真犯人はこっち側にいるのか?」

氷河やセレンディアが実際に術に感染しなかったように、必ずしもすべての人が術の影響を受けるわけではない。伝播していくうち効果が薄くなることもある。つまり、術がかかっている人の割合が高いということは、術者が近くにいる可能性も高いわけだ。
しかし術にかかっていない人に話を聞いてみてもそれらしき人物は見つからず、そうこうしているうちに東商店街を通り抜けてしまった。

「そういえば……」

氷河はあることを思い出す。

「この辺にうちの別荘があったな」

うちの……といっても春寒本家の人間が主に使っているところで氷河は中に入ったこともない。ついでに氷河の両親が首都東区に住み始めてから本家の人間もそっちに泊まるのでその別荘が使われているところは見たことがない。

「あぁ、あれだ。思ったよりうちから近いんだな。売ればいいのに……」

家は維持するだけで結構なお金がかかるし、放置するのはそれはそれで良くない。春寒にはお金があるとはいえ、無駄づかいをしていいわけではない。

「……使われてない割に庭がきれいだな……ちゃんと清掃してるのか、使う予定あるのかな……」

首を傾げていると、建物の中から(傍点)人が出てきた。ピンク髪のロングに黄緑のメッシュ、年齢はおそらく高校生だろう。

「どちら様?」
「いやそれはこっちの台詞なんだが」

春寒家の関係者か、本家で雇っている人間全員把握しているわけじゃないし、と思ったが普通に考えて春寒家の関係者が氷河が春寒の人間だと気づかないのはおかしい。春寒の血筋はかなり髪色や目の色などの外見的特徴がわかりやすいからだ。

「……よく見ると似てる」
「は?」

ピンク髪は氷河にずいっと顔を近づける。

「おい、近いって……本家の関係者か?」
「ほんけ?」

ピンク髪は一瞬きょとんとした顔をした。
それを見て氷河は確信する。不法侵入者だ。

「……あぁ、そういうことか」

そう言ってピンク髪は踵を返し、堂々と敷地内に戻っていった。

「いや、おいおいおいおい、お前、不法侵入だろ!?」

あまりにも堂々としていたため反応が遅れた。
今ここで中に入って不法侵入者を捕まえても良いのだが、氷河には現在やることがある。もちろん黒い煙の術の犯人探しである。
なので本家に一報を入れておき、煙の件が片付いたあとにもう一度来ることにした。

「あ~、大河と麗河、暇なのはどっちかな」

大河と麗河は春寒本家にいる氷河のいとこたちである。本当はもう1人いとこがいるが、彼女は本家においてあまり権限がない。

「とりあえず大河でいいか」

氷河は携帯電話を取り出す。

『やぁ君から電話が来るなんて珍しいね?』
「いま暇か?」
『そんなに暇じゃないよ』
「じゃあちょっと伝えたいことがあるんだが」
『じゃあってどういうこと?』
「まあまあまあ」

氷河の中で大河はそれなりに雑に扱って良いものという認識であった。

「首都東区に別荘あるだろ?」
『あったね〜そういや』
「あそこに不法侵入者がいるっぽいんだよな、庭もきれいになってるからもしかすると住んでるかもしれない」

『へ〜、そうなんだ』

かなりどうでもよさそうな返事が返ってくる。

『氷河戦闘術者とかじゃなかったっけ? 適当に片付けておいて』
「わかった。今抱えてる件が終わったら片しておくよ」
『そういやそうだ。僕も聞きたいことがあるんだが』
「なんだ?」
『河鹿が数週間前から行方不明でさ〜』
「そんな軽く言うことか?!」

氷河は大河と話し込んでいたため気づかなかった。背後から近づいてくる人がいることに。

『どうせいつものだろうとおもって放ってたんだけど、全然帰ってこないからやや心配なんだよね』
「やや」
『だからさ、見かけたら捕まえておいて〜生死問わず』
「死んでたら困るだろーが! わかっ……」

氷河は後ろから誰かに術をかけられて気絶した。

「……やはり油断しているところに催眠術はよく効くな。今春寒本家に関わられるのは面倒だからな」