「と、いうわけで術自体は軽く殴れば解ける。とりあえず水無家は元通りだ」
『へぇー、あまり強い術じゃないのか……』
水無潮になんとか説明をし、両親の術も解いたあと氷河は雷に連絡を取った。
『それにしても煙が見えたりすぐ解けたりあんまり実用性がないな。私なら煙なんて出さない』
「精神作用系の術なんてそうそう使わないからなぁ……感染なんて地味に高度なことしてるし」
『確かに? まあどっちにしろ感染するなら水無家だけ治しても意味ないんだったな。氷河くんが無事そうだし私も行くか〜』
「そうだな。とりあえず俺も真犯人探しを……っと」
通話中に突然斬撃が飛んできた。
『何? なんかあった?』
「なんか好戦的な輩がいるな……また後で」
氷河は雷との通話を切った。
「あれは……」
猫族だ。

望円国は、一応人間が作っている国ではあるが、しばしば他種族が出稼ぎに来ていたりする。に、しては随分コスプレじみた格好をしているが。
「お前、煙が出てないな。犯人か?」
「あー……」
この猫族も術に感染していないようだ。
「俺が犯人だったら、術が蔓延しているこんな場所来ないと思わないか?」
「犯人は自分が術にかからないように対策してんだろ」
「まあ、確かに」
正論ではある。
「私はこの煙のせいでバ先をクビになった! 覚悟!」
そう言って猫族は爪を伸ばしてものすごい速度で氷河に向かってきた。
(早い! 身体強化術か)
そもそも術というのは人間が開発したもので、他種族であまり術に長けているものはあまり多くはない。半獣人たちが戦闘をするときはもとの身体能力の高さで殴ってくることが多いが、この猫族はそれに加えて術で能力を強化している。
「やるじゃないか」
「なんで上から目線なんだよっ!」
距離をとってもすぐに詰められるので意味がない。
(あんまりこういうのは得意じゃないんだがな)
氷河は長いつららを一本生成して剣のように手に持った。
そして猫族が振りかざした爪を弾き飛ばす。
「にゃっ?!」
猫族は反撃に驚いて後ずさった。
その隙に氷河は空いた片手で緩めに吹雪を発射する。
「にゃっ、冷た! 動物虐待反対!」
「先に襲ってきたのはそっちだろ〜」
「お前……やるな?」
「まあー、戦闘術者だからな」
「戦闘術者?!」
猫族は目を丸くした。
「じゃあお前はこの煙について調べてたのか!」
「話が早いな……最初から俺の話を聞いてくれてれば」
猫族はセレンディア•シャノワールと名乗った。
中華料理屋でバイトしていたのだが、そこの店長が煙の術にかかり、「黒猫族なんか雇うからこんなに不幸なんだ……」と言いながらクビにされたらしい。
「また不幸か……」
水無潮も己の不幸を嘆いて氷河に攻撃を仕掛けてきた。
「とりあえずあの術はそんなに強くはないし少し殴ればその店長も正気に戻るかもしれないぞ」
「術にかかってたとしても普段から半獣人を見下してなきゃ私をクビにしようなんて選択しないでしょ。あんな職場戻らないよ」
確かにいくら術とはいえどもともとない思考や感情を植え付けるのは難しい。だとするとこの術は特定の負の感情を増幅するように作られている可能性が高い。
「私はこれから職探しをするが……氷河さんは術の解除と犯人探しか?」
「まあそうだな」
「向こうの方、こっちより煙出てる人が多かったぞ」
「ありがとう、助かる」
冷静だったら普通に良いやつだな……と氷河は思いつつセレンディアが指した方に向かうことにした。
