氷河は湖ちゃんの家のある東商店街A地区に足を踏み入れた。もともと閑散としている商店街だが、いつもに増して静かな気がする。
閉まっている店も多かった。もともとなのか今回の件の影響なのかはわからない。
「こんな状況じゃ黒い煙がどういう感じなのか見る前に目的地に着いてしまう」
一応氷河からの連絡が1時間来なかったら雷が出ていく、ということを決めてきた。
そうこうしているうちに水無家の前に到着した。
一応氷河は高校時代に水無家の人々には会ったことがある。と言っても顔を合わせて挨拶しただけだったので向こうが覚えているとは限らない。
店先に湖ちゃんの姉、水無潮が立っていた。
以前より険しい顔をしていて、確かに頭から黒い煙が出ているように見える。
(これかぁ……)
水無潮は近づいてくる氷河に気がついた。
「どちらさま?」
――覚えられてなかった……
術のせいで記憶に障害が出ている説もなくはない。それにしても店に近づいてくる人間を見てどちらさまと言うのもおかしな話である。店に近づいてくる人なんてほとんど客に決まっている。今回はそのほとんどには当てはまらない方なのは間違いないのだが。
「こんにちは、春寒氷河と言います。水無湖さんの同級生で……」
「? 知らないわね。湖の同級生がなんの用?」
「その煙について、調査に」
潮は険しい顔をした。
「煙? 湖みたいな妄言吐くのね……」
「自分がおかしくなってる自覚はないのか」
「おかしい? 私が? おかしいのはあなたの方じゃない。急にたずねてきて人を疑い……」
「そ、それはすまない」
「あなたのような人間がいるから私はこんなに不幸なんだわ……あなたも同じくらい不幸になってしまえばいいのに」
様子がさらにおかしくなってきた。
「人間全員不幸になればいいんだわ……!」
「急に主語デカ!」
潮は突然術を飛ばしてきた。
義務教育で習うくらいのシンプルな水術だった。
「こんな狭いところで戦闘する気か?!」

氷河は特に苦も無く術を避けた。
水無潮は我を失っているのか、なんの反応もなく次の攻撃を仕掛けてくる。
「話を聞けって」
氷河が攻撃を避けるたび周囲の商品棚がびしょびしょになっていく。
(長引くのも良くないな)
どうせ声は届かないようだし。やるしかない。
「ミニ吹雪!」
氷河の手から細かい氷の粒が放たれる。吹雪というにはしょぼい量だが素人相手に本気を出すわけにもいかない。
「うわっ」
潮は顔面からミニ吹雪を受けて怯んだ。
そのとき、頭からでていた黒い煙がスーッと薄くなって消えた。
「おっ? こんなんでいいのか。あんま強くない術なのか……?」
「わ、私は何を……」
目を開けた潮は周囲のびしょびしょになっている商品棚を見て目を見開いた。
「これは一体どういうこと? あなたがやったの?」
「覚えてないのか? 面倒だな……」
氷河は軽くため息を付いた。
