黒夜同盟

「家族の様子がおかしい?」
「そう」

首都東区、春寒家屋敷の敷地の隅っこにある倉庫――雷と氷河が事務所として占有しているその場所に、大学の同級生である水無湖が訪れていた。

「おかしいというのは、どういう風に」
「性格が暗くなって口も悪くなった。毎日世界への恨み言ばかり聞かされてるよ」
「それは、日々のストレスのせいとかではなく?」
「いや、明らかにおかしな点がある。多分これは君たちの分野だと思ってね」
「つまり……術絡みということか?」

雷と氷河は戦闘術者であった。戦闘術者というのは、術絡みのトラブルやら事件やらを解決する仕事である。といっても実態はほぼ便利屋みたいなものである。戦闘術者は資格さえあれば誰でも名乗れるので、国中には星の数ほどいる。自分で事務所を構えたところで依頼だけで食っていける人なんて一握りで、かくいう雷たちもずっといなくなったペットを探すだとかそういう仕事ばかりだった。なので友人の湖ちゃんがちょっとおもしろそうな話を持ってきたので雷は内心こころ踊っていた。言ったら怒られるので言わないが。

「頭から黒い煙が出ているんだ」
「そりゃおかしいな」

湖ちゃん曰く――
黒い煙が出始めたのと同時期に様子もおかしくなったらしい。最初は姉だったという。そのうち両親も同じようになった。

「それって感染したってことか?」

雷が訊く。

「おそらくそう。他の東商店街の人たちもぽつぽつ煙が出ている人を見るし……東商店街が廃れているのはいつものことだけど、このままだと本当に人が来なくなるかも」

湖の家は東商店街に店を構える雑貨屋なのだった。

「感染かぁ……精神作用系の術だろうけど、それなりの術者が一枚噛んでそうだな」
「湖ちゃんは大丈夫なのか?」

心配になった氷河が訊く。

「私はなぜか大丈夫。多分貯金が沢山あるからだわ。お金の余裕は心の余裕。姉貴は貯金なんてしてないからね」

一体何を聞かされているんだ?

「……まあ、精神系の術は相性があるからな……」

精神作用系の術は術者の腕前もそうだが術をかけられる人の性質や心の状態に大きく依存する。だからまあ、心の余裕がどうこう言っている湖のいうこともあながち間違いではない。

「そういえば依頼料は友人割引とかあるの?」

おもむろに切り出す湖。

「あるわけないだろ」

雷は即答した。

「けちだな~、君は春寒に寄生してるんじゃないのか?」
「いや待て俺の金はこいつとの共有財産じゃないからな?」
「氷河くんのお小遣いは使えるけど春寒家自体は術者業にお金出してくれないからな~」
「使うなよ」

雷はしょっちゅう財布を忘れるので支払いは氷河がすることが多いのだが、……返す気はあるのだろうか?

「まあ、いいか。私は貯金がたくさんあるし」
「さっきから貯金の多さをチラつかせてくるの腹立つな~」
「君たちも労働をするといいよ。お金が増えていく通帳を見ていると笑顔になれるからね」
「今から君のために労働に行くんだがな」

さて、ここで大きな問題がある。

「どっちが調査に行くんだ?」
「どっちがって……2人でいけばいいだろ氷河くん」
「いや感染するんだろ? 共倒れしたら困るだろ」
「湖ちゃんが大丈夫なら私たちも大丈夫だと思うんだがなぁ」

氷河も実のところそう思っていたが、念には念を入れておくに越したことはない。

「じゃ、基礎調査は氷河くんがやってよ」
「は? 珍しいなお前が譲ってくるなんて……」
「私より氷河くんのほうがまともに情報集められるだろ〜、問題なさそうなら私も出るよ」
「なんだ自覚あったのか……」

と、いうわけで最初は氷河が調査に出ることになった。