「君が冴代文珠くんか」
文珠の前に座っているのは春寒本家次期当主・春寒大河。華鹿を回収するために来たのかと思えば、突然話がしたいと言われ文珠はわけがわからなかった。
「君は、真城英莉と真城伶莉についてどう思ってる?」
「は?」
予想外の質問に文珠はさらに困惑する。
「どうって……どういうどうですか」
「例えば〜、彼女らの過去のこととか?」
文珠は二人の過去についてざっくりとであるが耳にしている。そして、こんなことを聞いてくるということは、大河はこの二人の名前と境遇からどういう目にあったのかを察したということだろう。
「……僕は家が焼かれて家族が殺されてということしか聞いてませんよ。まあ、それで何の事件の被害者かは検討はつきましたが」
「うん、それで?」
「能力開発研究所所長宅放火事件――」
「やっぱり君なら知ってると思った」
大河は笑みを浮かべた。文珠はこういう種類の笑みを知っていた。コイツに関わったらろくな事にならないだろうと思った。
「あの事件では一家四人が死んだことになっていたはずだけど、姉妹は生きていた。これはどういうことなんだろうね」
「それ、僕に聞いてんですか」
「そうだよ」
なんでそんなもん訊かれなきゃならんのだ、と文珠は思った。
「死体か、情報が偽装されたんじゃないですか」
「まあ、それくらいしかないよね」
どちらにせよ、子供2人の死亡を偽装することにとくにメリットなんてなさそうに思われるのでおかしな話である。
「そもそもなんで偽装する必要があったのかはよくわからないが、偽装するんだったら……一人の仕業とは考えづらい」
大河は何も言わずににこにこしている。
コイツ僕にだけ話させておいて腹が立つな、と文珠は思った。
「じゃあ、誰の仕業か……姉妹の目撃情報からして、……組織」
「あの二人は犯人を見ていたんだ?」
「さぁ……実行犯かどうかは知りませんけど。何かしら関わってる可能性は高いでしょうけど」
姉妹はあの日家の周囲でおなじ服を着ていた人を何人かみたと言っていただけ。少なくともあの2人は彼らがやったと思いこんでいるようだが。
「文珠くん……僕はね、組織を潰したいんだ」
「はぁ?」
急になんだ。文珠の脳裏に嫌な予感がよぎる。
「それで、使いっぱしりにできる戦闘術者が一人欲しくてね」
嫌な予感は的中した。
「そう……君にぜひやってほしくてね」
「嫌に決まってるじゃないですか! 戦闘術者だなんて――」
「そんなこと言ったって、君に拒否権はないよね? だって君、今後どうするのさ」
文珠の表情が固まる。
「またニートに戻るの? それとも……」
大河は一呼吸おいて言う。
「君が昨日夜中に出かけて行った先で働くの?」
「な、なんで……
「なんでって、そりゃあ、君は事件を起こした後なんだから、不自然な動きをとられたら監視するに決まってる」
「……」
文珠は何も言い返せなかった。
「もしかしてブランクがあるから戦闘術者試験に受かる自信ない? 氷河たちにも負けちゃったしねー」
「そんなわけないだろ!!」
急に立ち上がった文珠に大河は口角をあげる。
「だよね。君は天才なんだろう」
あぁ、やっぱりお前もか。
「期待しているよ、文珠くん」
そんな期待なんてもううんざりなのに。
